「チッ・・」
舌打ちって怖いですよね。恐怖のどん底ですよね。一言で、いや、一打ちで場を収める素晴らしい技。悪魔の音色とでも呼んでおこうと思うんです。それほど舌打ちには効果がある、それが舌打ちなんです。
今日、ある理由で休日だった僕。
暇で暇で仕方無く、手のひらに暇と3回書いて飲んでみたんですけど、くすぐったいだけで、「うっふふふ」とか独り笑っちゃう程暇だったんですね。
立ち上がるのも億劫な倦怠感の中、意を決して外へ飛び出してみたんですけど、行くあてがさっぱりない。とりあえず向かった先が駅でした。
駅は人がいっぱいいる。ただそれだけで来ました。
んで、適当に切符を買って、30キロ程離れた繁華街まで足を運びました。結構思い切りました。独りでこの繁華街はきつい。と言っても、友達を呼ぶのもなんだかだるい。
適当に歩いていたら、おじさんに呼び止められ、
「アンケートをお答えいただければ、あちらのジュースをプレゼントします」
とかなんとか爽やかな笑顔で言うもんだから、死ぬほど暇だったので、
「答えるしかありませんね。」
と、さも格好よさげに返事しました。
んでアンケートを見てみると、なんでも光ファイバーがどうたらこうたら、なんだかこじゃれた物で、この芋虫でも食ってそうなおっさんからは想像も出来なかったであろうアンケート。
看板が出てるんですけど、その看板が嘘だと思えるほどに原始人みたいな顔したおっさんなんですね。
そして、色々答えて行くんですけど、このおじさんというか原始人がいちいちうるさい。というか顔が近い。いや、近すぎるんですね。もう、通り過ぎるカップル達の距離感よりはるかに近い僕とおっさん。
「近いですよ。」なんて言えないので、自分からちょいちょい離れていくんですけど、これがまた見事なフットワークでついてくる。「これは、ほられるな。」とか夜の心配までしてたんですけど、
どうも嫌われて行くみたいなんですね僕。
というのも、光ファイバーってのは、「シブヤ」とか「ギロッポン」とか言ってる都会の人たちが使う代物でして、僕みたいな辺境のド田舎のボロアパートに住まうカッペには使いこなせないジャジャ馬なわけです。
まぁ、要するに光ファイバーが利用出来ない程のド田舎なんですね。
僕が、物凄い興味を示して、「答えるしかありませんね。」なんて言っちゃったもんだから、どうにもこのおっさん、僕が加入するもんだと勘違いしてるみたいなんですね。笑顔が半端じゃないですもん。けど。「興味があるのは、そこに積まれたジュースなんです。光ファイバーなんて知ったこっちゃありません」とは言えずに、一生懸命聞いておきました。
それで、アンケートも終盤に差し掛かった時でした。
「じゃあ、ここに住所書いてください!」
もう、終始諦め気味「光ファイバー最高」みたいな事をのたまってたもんですから、このおっさんテンションも最大で、語尾もなんかものすごく強い。怒られてるのかと思った。
住所書いたら使えないのバレちゃうんでしょうけど、嘘の住所を書くわけにも行かずに、ありのままの住所を書きました。
「ちっ・・・・・あ、あぁ・・・こんな所に住んでるんですねぇ・・^^;」
ええ、舌打ちしてきました。
明らかに狼狽しながらも、ひきつった笑顔を取り繕っていました。僕も色々聞いたもんですから、少なからず興味がありましたので、もしかしたら使えるようになったかもしれない。と思い、
「光ファイバー使えますかね?」
なんて聞いてみたら、調べてもいないのにこのおっさんは、
「使え、ない。」
とか鬼のようなこと言ってきました。さっきまでの屈託の無い笑顔は消えうせ、まさに鬼のような顔で言ってきました。
それでも無事アンケートは終わり、鬼のようなおっさんが鬼のように山積みにされた鬼のようなジュースを一本選び、あげたく無いんでしょうね、「おらっ」みたいな感じで渡されました。僕もなんだか罪悪感でいっぱい。これ以上は気まずいと思い、ジュース片手に立ち去ろうとした時でした。
「抽選どうぞ。1枚ひいてください。」
なんだか、箱の前に鎮座するバイトのお姉さんの可愛い声に呼び止められました。なんでも1回だけクジをひけるという特典も、アンケートを答えた人にはついてくるらしいんですね。「いらねーよっ」みたいに格好よさげに言う事も出来たんでしょうけど、そこは自称「負け戦ギャンブラー」の孫ですから、考えより先に口にしてました。
「ひくしかありませんね。」
おっさんの方見てみると、炭酸の抜けたコーラみたいな顔をしていました。というか睨んでいました。こんなに露骨なおっさんは初めてだちくしょう。ここで良い物をひいてしまったら、このおっさんは怒り狂って襲ってくるかもしれない。まぁ、アンケートを答えただけの抽選だから、大したもんはないだろうと思い、適当にハズレっぽいのをひいて渡しました。
「神様、ティッシュでいいんです。ティッシュフェチなんです。」
心の中で願いました。おっさんはなおも睨んでいます。目をつぶり、祈っていました。
突如鳴り響く鐘の音に驚き目を開ける僕。
「大当たり~!商品券1000円でぇ~っす!!」
無常にも一等賞をひいてしまいました。僕には祖父の血は流れて無いんでしょうか。
おそるおそるおっさんの方を見てみると、ちょうど、大きな舌打ちが聞こえて来ました。
そして、すぐ家に帰ってきたんですけど、僕って何も悪い事してませんよね。ちっ。
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