「ハッスルハッスル!!」
昨日は勢い余って10時半に寝た自分。
なぜだか、同居の父に向かって、
「今日は10時半に寝るから!」
などと豪語してしまったのがそもそもの原因だ。
そんな僕の希望に満ち満ちた発言を聞いた父も、
「あ、あぁ・・そうか」
勝手に寝てろ、と言わんばかりの冷たいレスポンスを返してくる。
「そうかそうか!お前も10時半に寝れる男になったか。」
などと世迷言を言う父では無かった。
だが、そう冷たくされるとやる気が出てしまうのが男の性だ。
時計を見ると、午後10時。
自分でも、なぜそこまで無茶を言ったのか理解できない。
けれど、夜更かしは良くないという理性が働いたであろうことは把握できた。
絶対に寝てやる。
強い気持ちが奥底からこみあげてきた。
まず、寝るために何をすべきか。
不幸にも、今日は水曜日という事で、前日の睡眠時間はなんと12時間半。
休日、怠惰な生活を送る日。
いまだ健在する持論にはほとほと呆れかえる。
それでも、寝るために何をすべきかを腹筋をしながら考えていた。
「目を酷使・・・」
「息を止める・・・・」
「イビキをかいてみる・・・・?」
「いやいや、スクワットでもしてみるか・・・・?」
「まてよ・・・精神的な問題も・・・・」
「それよりもまず、やはり目を・・・」
なんてことはない。
考えている内に寝入っていたようだ。
なんとも単純な脳の構造。
普段、どれだけ脳を使っていないかが顕著に表れた。
と、いうわけで僕は10時半頃に寝ることができ、気分はすこぶる快調。
朝の大便をしていない事だけが唯一の心残りだ。
そして、ついつい冒頭の言葉が飛び出してしまうほどの、絶好調。
軽い足取りで、駅まで向かった。
あぁ、気分が良い。
電車の時間もぴったり。
颯爽と乗り込んだ。
青い空。
銀色の車体。
満員の車内。
むせかえる空気。
押しつぶれそうな圧迫感。
消え入りそうな想い。
失いかけたハッスル。
降りる頃には、いつもの自分に戻っていた。
死んだ魚のような目で地下鉄まで向かい、死んだ魚のような体勢で揺られる。
そんな死んだ魚のような僕には、ハッスルなど遠く及ばなかった。
9時からのスタート。
今日の講義は、英語。
ミッチーの織り成すファンタジックワールドだ。
学校に着き、死んだ魚のようだった僕も、死にかけた魚ほどに回復していた。
教室に入り、席に着く。
10分後、ミッチーによる講義が幕を切った。
普段のミッチーはほとんどをその得意な英語で繰り広げる。
だが、今日は違うみたいだ。
「今日は英語ではなく、日本語で講義したいと思います。」
と、豪語してきた。
今までさっぱり理解出来ずに、泣き寝入りをしていた自分。
大いに喜んだ。
早速始まった日本語によるミッチー講義。
これで授業についていける。
そんな期待を胸に聞き入っていたが、何かが気になる。
そう、言葉がおかしい。
「もちのん、俺もそう思う」
「しゃらに、こうも言えるよね」
「やっぽり、ここは違うかな」
「おスィー、おスィー」
「宇多田ヒコル」
おかしいというよりも、惜しいと言った方が正しいだろうか。
いや、おスィーのか。
最後の宇多田ヒコルには、不覚にも笑ってしまった。
そんなことばかり気になった。
長年英語に慣れ親しむと、こうなってしまうのか。
アラを探す事に集中していたら、講義についていけなかった。
日本語でも英語でもいまいちついていけない自分に呆れた。
それとは裏腹に、今日のグループディスカッションは大いに盛り上がった。
途中、ミッチーが入ってきて、
「上戸彩を例にとるとさぁ」
「上戸彩はさぁ、3人兄弟の末っ子でさぁ」
「上戸彩は、アーティストでもあってさぁ」
などと、上戸彩論議が絶えない。
本当に大好きらしい、見事な知識の30代後半のハッスル。
毎回配るプリントには、必ず登場するAyaの名前。
同じく、mitchyの名前。
二人の会話例はなんとも親しげで中には恋人同士ともとれるものもある。
いつになっても、ミッチーのように情熱を捧げて生きたい。
そんな事を考えながら、ミッチーの話を笑顔で聞いた。
「ただ宇多田ヒコルはぁ、わががまなんだよねぇ」
上戸彩は好きだけど、宇多田ヒコルは嫌いなミッチーだった。
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