本日、水曜日。
毎週のことながら、講義をとっていないため休日だ。
休日、怠惰な生活を送る日という言い回しの方がしっくりくる。
そんな1日を振り返ってみる。
もちろん朝は起きない。
昼を過ぎたあたりでようやく目覚める。
「ふぁー、今日は早く起きたなぁ」
寝言をほざきながら、朝ごはんを昼ごはんよりも遅い時間に食べる。
何を食べたのだろうか。
それすらも忘れるほどのお粗末な食事。
大学に合格し、新たな生活に思いを馳せていた頃の自分が嘘のようだ。
「朝は7時にしっかり起きる!」
「朝ごはんには味噌汁を作るんだ!」
「お弁当だって毎日作るぞ!」
今ではすっかり見るも無残な抱負の数々。
「朝って昼過ぎの事ですか?」
「味噌汁?クノールクノール!!」
「お弁当?イレブンイレブン!!」
なんともまぁ、見事な堕落ぶり。
たまに作る味噌汁も、かなりの味の濃さだ。
あぁ、あの頃の俺はなんて男前なのだろう。
ふと寝ぼけた脳が朝を感じ取る。
時刻は午後3時。
そういえば昨日、S君が遊ぼうと言っていた。
確か集合時間は12時。
おそらく、特急列車でも間に合わないだろう。
『潔く諦めるのが男というもの』などと、自分を正当化する。
昨日S君に頼まれたビデオ録画はしっかり一人でできた。
その事を差し引けば、怒り狂って家まで押しかける事は無いだろう。
むしろ、目に見える形でお釣りが来るはずだ。
100円とか100円とか100円とか。
そんな事などを考えながら、3時間ほど無駄な時間を過ごしていた。
午後6時、外もすっかり暗くなった。
最近は、めっきり日の出ている時間が減った。
4時半頃にはもう暗くなり始める。
気温も、雪こそ降ってはいないが、すっかり冬模様。
外に出るのも億劫だ。
自分の今後に一抹の不安を覚える日。
それが休日だ。
しかし今、最も不安なのは、明日の通学電車だ。
というのも、明日は1時限目から講義が入っている。
どんなに遅くとも、8時までの電車に乗らなければ間に合わない。
そして、この時間の電車は、いわゆる通勤ラッシュだ。
こんな北海道の片田舎だが、空港と県庁所在地との間の街だ。
それなりと言わず、それどころでは無い程の混みようを見せる。
先々週など、向かいに立つおっさんとものすごい密着姿勢だった。
先週は鼻息が感じられる距離だった。
この調子でいくと、明日はキスの一つでもかましかねない。
・・・それだけは避けたい。
向こうサイドも、相当不快だろう。
自慢じゃないが、悪口臭に多少の自信すら持っている。
なんにせよ、この事態だけは避けたい。
いっその事、少し遅刻してラッシュを避けようかとも思った。
けれど、昨日の講義で、
「ミッチー甘すぎた。次回からは10分以上の遅れは遅刻とします」
「オーライ?」
ダメだ・・・。
遅刻2回で欠席扱いとも言っていた・・・。
遅刻せずにラッシュを避ける方法。
「無免許・・・」
「自転車・・・、あ、昨日盗まれたか・・・。」
「徒歩・・・・、午前2時出発・・・・」
導き出した答えは、前乗りだった。
そうなると、寝床の確保が必要だ。
友達の家に泊まろうにも、友達がいない。
ホテルに泊まろうにも、金が無い。
野宿しようにも、気温は氷点下に近い。
あ、最高の方法があった。
「僕らの聖地、自遊空間!」
すでに、僕の頭にはのだめカンダービレしかなかった。
「野田恵!野田恵!」
気分はピアニスト、歌うように身支度を整え駅まで向かった。
午後8時40分。
人気の特急列車は雷鼓のライブばりの盛況だが、普通列車はスカスカ。
別段急いでいるわけでも無いので、サッと普通列車に乗り込む。
25分後、無事到着。
気にかける程の酔いも無く、調子はすこぶる良い。
時間は9時ちょい過ぎ、自遊空間がある狸小路付近を目指す。
天気はさほど悪くないので、歩いていく事にした。
大通を過ぎてすぐの、この道。
思い出す。
先日、見知らぬ外国人に、
「オォ、チョットイイデスカ?」
「いやぁー、ちょっと急いでるんすよねぇ」
「イップンダケ!イップンダケデイインデス!」
「イップン!イップン!」
そんな言葉、クールな僕には全く通用しない。
冷たくあしらい、歩き去った。
去り際に、渡された写真。
その写真には、満面な笑みで移る家族らしき3人組が写っていた。
その純朴な笑顔に心和まされながらも、
「イップン!イップン!」と叫び狂う外国人を振り切って歩いた道だ。
そんな感慨に浸りながら、歩いた。
途中、ブックオフで40分、スガイで1時間時間を潰した。
いざ、自遊空間へ。
足取りも軽い。
狸小路が見えてきたあたりで、ふと気づく。
ダンサーが多い。
アニメーションやブレイクダ、特にヒップホップが多かったか。
3人組、5人組、中には1人で。
それぞれが思い思いにダンスの練習にふける。
そんな青春の風景を横目に、青春を謳歌すべく自遊空間へと急いだ。
「お、今日もダンス頑張ってるな!」
「お前もこれからネットだろ?」
「ああ、お互い頑張ろうぜ!」
「あぁ、負けないぞ!」
なんて、心のやりとりがあったかのような満足感。
ついつい勇み足で自遊空間へと入店した。
受付を済ませ、のだめカンタービレを片手にマイワールドへ。
今回は8時間パックで1500円を選択した。
深夜の自遊空間。
外ではダンスの練習に汗を流す若者達。
一方、隣の席では、色恋に汗流すふざけたバカップル。
数センチの壁1枚で隔てられた向こうで、バカ共が大声でいちゃつく。
誰かさんのせいで、バカップルには過敏に反応する。
もう殺すしかない。
正義の味方である僕は、考えよりも先に行動していた。
おもむろに部屋から退出し、隣のバカップルームを外からノックする。
彼氏「はい?」
彼女「・・・」
僕「・・・」
サッと部屋に戻り、のだめを読む。
ジュースを取りに行き、開いている反対の隣の部屋から壁をノック。
彼氏「・・・」
彼女「・・・」
僕「・・・」
サッと部屋に戻り、のだめを読む。
効果覿面。
この波状攻撃で、彼らの息の根を止めてやった。
案の定、隣からは物音一つしなくなった。
言い知れぬ満足感と共に、エリートヤンキー三郎を読みまくった。
ルーキーズ全24巻を読み終え、軽い眠りに入る。
どれくらい経っただろうか。
いつのまにか、リクライニングシートを倒し、眠りについていた。
急いでパソコン画面を見る。
『経過時間8時間6分』
完全にオーバーしていた。
幸い本は棚に戻してある。
急いで身支度を整え、レジへと向かった。
時間が早朝だったため、レジは無人。
なにやら、奥の方で楽しそうに話す声だけが聞こえる。
「すいませーん!いいっすかぁ!」
大声で言ったつもりだが、誰も来ない。
「すいませーん!」
さらに上げたが誰も来ない。
ふと、100均で売っているようなベルの存在に気づく。
これだけ大声出して来なかったのに、ベルなんかで・・・。
それでも、ダメ元でベルを力強く押す。
「ちーん」
小さくベルが鳴った。
その瞬間、店の奥から颯爽と小走りで店員が登場。
すごい暗い顔だ。
たぶん、奥で談笑する輪の中に入れなかった可愛そうな店員だろう。
それにしても、なんともまぁ機械的。
ベル以外では私共を呼べませんよアピール。
「ご清算でよろしかったですか?」
「あ、はい・・・」
ピッピッ
「それでは1550円になります。」
「え・・、1500円じゃないんですか?」
「はい、8分経過したので1分超過で延長料金50円いただきます」
もうあれを言うしか無かった。
「イップン!!イップン!!」
そんな言葉、クールな店員は全く通用しない。
冷たくあしらうように、
「1550円になります。」
「・・・・はい・・」
キリの悪い金額を払わされ、店を後にした。
「これから学校か・・・」
満員電車に乗るよりも確実に疲れている体に鞭打ち、学校へと向かった。
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