今日は昼から講義が入っていた。
もちろん、真面目な僕は出席するために家を出る。
学校までの道のり約30キロ。
1時間を要し、ようやく大学へと到着した。
実りある講義を終え、帰路につく。
講義時間1時間半のためにかかる通学時間合計2時間半。
なんだか腑に落ちない点もあったが、持ち前の元気で割愛した。
帰りの電車、6番ホームから14時55分発。
颯爽と乗り込み、窓際の席を確保した。
普段は、荷物が多くて通路側の席をも占領していた。
けれど、今日は荷物が何も無い。
「ちょっとセコマ行って来る」みたいな格好だった。
「ちょっとしまむら行って来る」みたいな格好だった。
当然、通路側の席に人が座った。
・・・少し華奢な高校生だ。
座った瞬間、ほのかに香水が香る。
同時にメールをカタカタ打ち始めた。
1分後
突然、隣から寝息が聞こえてきた。
「スー・・スー・・・」
わずか1分で眠りについたようだ。
わずか1分で眠りについたようだ。
身体を大きく揺さぶる。
まだ意識が多少残っているのか、こちら側に倒れこんではまた戻る。
そんな事を繰り返していた。
その寝まいと努力する姿に、優しい気持ちにさせられる自分がいた。
さらに1分後
案の定、ソッと僕の肩に寄り添ってきた。
今度は、完全に寝ているようだった。
「寝ちゃった?・・・ふふっ、コイツゥ」
こんなセリフが飛び出す状況だっただろう。
カーディガンに隠れた手に握られた携帯電話が、力無く落ちた。
ほのかに香るシャンプーの香り。
起こすなんて無粋な真似も出来ずに、ただただ空を眺めていた。
この時の空を眺める顔は、すごいハンサムだったように思う。
今日は、それなりの満員電車だ。
駅ごとに、乗降車する人が列をなす。
座れる場所、寄りかかれる場所を探し、乗車してきた者は闊歩する。
当然、僕の席の隣を通り過ぎる客も少なくない。
目につくのは、自称ハンサムな顔をしながら外を眺める僕。
それに寄り添う、制服姿の高校生。
どこからどう見ても、例のアレだ。
まったく、俺も隅に置けないな。
そんな人達の視線に複雑な気持になりながら、電車に揺られ続けた。
「次は~新札幌~新札幌~」
軽快なアナウンスが車内に響いた。
すると、今まで寝ていたコイツが飛び起きた。
「あっ・・」
乗り過ごしたのだろうか、慌てて席を立つ。
その瞬間、こちらを振り返り、こう言った。
「じゃあねっ」
この胸の高鳴りはなんだろう。
コイツとは知り合いでもなんでもなく、初対面だ。
別れの挨拶を言う間柄では無いはず。
それなのに、じゃあねとは・・・わざと寄り添っていたのだろうか。
もしや、これは新手の・・・・。誘ってる・・・?
様々の考えが交錯しながらも、心無しかの笑顔で見送った。
僕の表情を見るや否や、慌てた表情で電車を降りていった。
その去り行く姿を、僕は窓からハンサムな顔で見つめ続ける。
学生服姿の彼が、みるみると小さくなっていった。
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