今日は9月6日。
おそらく苦労の日だ。
何の根拠も無いが、たぶんそうだ。
苦労しなければいけない。
そう前日から思っていた。
けれど、朝起きてみると午後0時。
もう大変だ。
朝ごはんを食べれないと言う苦労を早速実行した。
幸先良いなと思いながら、ヤキソバを作った。
これが不味い。
もう2個目の苦労だ。
時計を見れば午後1時。
小学生が友達の家に遊びに行く時間だ。
よし、苦労の旅だ。
そう思い、スウェットとポロシャツとサンダルで自転車にまたがった。
行き先は、できるだけ遠く。
イオンを通り過ぎ、忠和に入る。
チェーンが外れてもくじけない。
トンネルを抜け、北都商業高校を過ぎる。
ここから先は山道だ。
早速、人通りが全く無い道へと入った。
人通りが無い分、虫達がいきがっていた。
もう、そこらへんの中2よりいきがっていた。
地面を見ると、とてつもない量のトンボ達がスタンバってる。
しかも、ファイタータイプのトンボばかりだ。
一斉に向かってくる。
無力な僕は何も出来ずに、トンボの体当たりを我が身で受けていた。
これも苦労だと思いただひたすらに受けていた。
しかし、1匹のトンボが均衡を破った。
シャツの袖から僕の乳首らへんを攻撃しにやってきたのだ。
これには、苦労の日だと思い耐えてきた僕も、
「あふっ・・、思い上がってんじゃねーぞ!!!」
人通りが全く無い事をいいことに、大声で言ってやった。
人語を習得していないであろうトンボ達に向かって、言ってやった。
今年から大学生の僕が、トンボに向かって言ってやったのだ。
なんだか、得てして快感を覚えた。
外で大声を出すなんて普段できないことだ。
普段できない事への好奇心が、僕の心を支配した。
「いきがってんじゃねーぞ!!!!」
「あははははっはっはははは!!!!!」
「そうきたかぁ!!!」
もう完全にモラルと言う概念は無かった。
心の底で、人に見られなければ大丈夫と言い聞かせていたからだ。
そう、人に見られなければ。
そもそも、こんな大声を出しているのは、トンボの攻撃に対してだ。
そして、トンボは地面から向かってくる。
おのずと地面に向かって大声を出す事になる。
するとどうだ。
前が見えないでは無いか。
そんな簡単な事も気づかずに、大声で叫んだ。
いや、気づいてはいたが、好奇心が邪魔をしたのだ。
「かかってこいやぁ!!!」
そう豪語した十数秒後だった。
人と、人とすれ違った。いや待て・・・、こんな所に人がいるわけがない!
幽霊だ!!
幽霊に違いない!!!
夏だからって、おいおぉーい!!!
そう確信し、振り返り確認する。
「かかってこいやぁ!!!」
と大声で言う僕を遠目に見たその幽霊は、ただ背を向け歩いていった。
ほら、やっぱり幽霊だ!
こんな所で大声で叫んでる人見たら、優しく声かけるじゃん!!
「大丈夫ですか!?」って!!!
幽霊の証拠じゃん!!!!
うん。
僕だったら、聞かなかった事にしようと思うけどね。
それでも望みを捨てきれず、心でお経を唱えてみる。
・・無論、彼には通じなかった。
それは僕の信仰心が足りなかったからでは無い。
彼が強力な怨念を持つ上級の幽霊だからでも無い。
答えは簡単。
彼が、普通のおっさんだからだ。こうして僕は、晴れて変質者となったのだ。
初めて幽霊に会いたいと思えた夏の日の午後だった。