気温は低く、雪も降っているが、なぜか寒くなかった。
全力で走ったせいもあるが、どこか満たされた気持ちにも暖かさを感じる。
この世情、あまりにも殺伐とし、無論情けなく、儚く人情は散る。そうゆう風潮が渦巻いている。その中で、今回のこの出来事だ。心が躍らないわけもなかった。
体力の無さに落胆こそしたが、補って余りあるほどの嬉しさがこみ上げる。走れこそしないが、切らした息でゆっくりと歩いた。
交番は、活気に満ちている。5人の警官が各々笑みを浮かべ会話をしている。私が到着した事など、気にも留めず、ただただ談笑していた。
少し大きい音を出しながら、戸を閉める。ようやく気付いたようで、1人の若い警官がこちらに歩み寄ってきた。
「財布落とした方?」
「はい。」
「じゃあ、こっち来てくれる?」
「はい。」
「中ね、見させて貰ったからね。一応自分でも中身確認してみて。」
「はい。」
自分自身への戒めのため、財布にしのばせていた中学校時代の恥ずかしい写真がひょっこり顔を出す。本当に"ひょっこり"といった感じの顔をした自分に、少々の苦笑。
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