任天堂DS Lite
ちょうど3週間程前、僕はトイザらスにいた。
流行の任天堂DS Liteを購入するためだ。
知ってのとおり、このハードは大変人気がある。
当然、どこの店も品切れでそうそう買えるものではない。
一緒にポケットモンスターを買おうものならなおさらだ。
そんなこれらの商品が、限定販売と銘打ち売られていると情報が入った。
その店こそがトイザらスだ。
・・・前日にS君宅に泊まった僕は、疲労困憊だった。
だが、トイザらスの開店時間は10時、30分前には到着したい。
眠い目をこすり、S君を起こし9時前に雨が降りしきる中、出発。
身体は濡れたが、9時半に着くことができた。
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ・・・。
30分前の現在、すでに50人程並んでいただろうか。
ついつい古風な物の数え方をしてしまったが、たった50人だ。
・・・これなら買える。
「今から、整理券をお配りします!無くされた方は買えません」
肥えた店員に整理券を受け取り、開店時間まで待つ。
その間に、後ろにも20名程並んでいた。
どちらにせよ買えただろうと、S君とちちくり合いながら待った。
10:00 客が店内になだれ込む。
その波に流され、僕らも入店。
なんなく、任天堂DSとポケットモンスターをゲットした。
入店後1時間経っても、未だに二つとも健在だったという事は、割愛。
こうして、苦労の末手に入れた任天堂DSとポケットモンスター。
・・・これらを今日、売りに行った。
ヤフオクで売るという手もあったが、店に売りに行く事にした。
第一、IDも無いし経験も無い。
それに、いまいち理解もできていない現状だ。
まぁ、そんなこんなでいくつか店を回ることにした。
最初の店は、個人経営であろうリサイクルショップ。
入店し、すぐに素敵な無精ひげを蓄えたおっさん店員に話しかける。
「あの・・、DSとポケモン売りたいんですけど」
「・・・・・・・・はい、ちょっと待ってくください。」
目が合っているのに、妙な間があいた。
大仏にでも話しかけたのかと錯覚すらした。
「あ、はい。」
「えぇー、本体が13000でソフトが3200だね。状態にもよるけど」
そう言いながら、電卓で二つの数字を足し、その結果を見せられた。
馬鹿にしているのだろうか。
その程度の計算くらい、小2の頃に習得済みだ。
「そうですかぁ・・・」
ヤフオクだと開封済みでも、二つで2万以上。
さすが、ネットオークション、やむなしとは思ったが、安い・・・。
その場でぶん殴って、「もっとよこせや!」と一喝する手もあるが、少し
探りを入れてみることにした。
「あの・・・、ちなみにGEOさんなんかはどれくらいだったりします?」
そう言うと、ヒゲの表情が急に険しくブサイクになった。
おそらくGEOというフレーズに並々ならぬ思い入れでもあるのだろう。
・・・まさか、GEOをライバル視でもしているのだろうか。
まったくもって分不相応。
なら、俺は速水もこみちをライバル視でもしようか。
「・・・・・・・・・まぁ、どこも同じだろうと思うよ。」
相変わらずの大仏っぷりで口をひらく男爵。
本当、鼻につくヒゲだこいつは。
それでも、高くかってほしい一心で食い下がる。
「状態見てもらっていいですか?」
懇親のスマイルで聞く。
「・・ぁぁん」
このヒゲは・・・、どちくしょう。
その無様なヒゲを全てむしりとってやろうか!などと思ったが、やめた。
ヒゲを触るのすら遺憾だ。
むしりとってる間の、「えいっ!」「いてっ」「えいっ!」「いてっ」
これ。
むしろ仲良しなんじゃねーかと思わせるようなやり取り。
こんな応酬を繰り広げるくらいなら、自分の鼻毛でも引っこ抜こう。
そんな事を考えながら、出ていた鼻毛を奥に入れた。
それに応じてか、ヒゲは鼻くそをほじりながら言う。
「あぁ、開封してんのか。本体1000円引きソフト500円引きになるねぇ」
「えぇぇ、じゃあ1万・・・4700円ってことですよね・・」
「そうなるねぇ。計算速いねぇ」
そんなのは小4の頃に習得済みだ。
「あの・・、一応GEOさんの方にも行ってみてもいいですかねぇ・・」
「まぁ、言うまでも無く一緒だと思うけどね」
ヒゲの口調が徐々に強まり出す。
落としにかかってきたのだろうか。
その口調にひるみながらも、
「で、出来るだけ高く売りたいんもんで・・・」
もう、すでに引きつったスマイルで言う。
「うん、いいよ。言うまでも無く変わらないと思うけどね。」
なぜ、このヒゲの許可をとらなければならなかったのかと悔やむ。
なぜ、「言うまでも無く」というフレーズを多用する。
「なら、言うなよ」というささやかな突っ込みを胸に秘め、店を出た。
店員とお客様、絶対的な主従関係が成り立っている空間。
オキャクサマハカミサマ
自転車で5分の距離にGEOはあった。
入店し、すぐ横にある買取カウンターへと急ぐ。
「ゲーム売りたいんですけど」
「はい^^少々お待ちください!^^」
対応したのは若い女性の方だった。
「多少お時間がかかりますので、5番の番号札でお待ちください^^」
まったくもって良い笑顔。
無論、ヒゲなんて生えていないし、鼻くそだってしっかりほじってある。
程なく、良い声で
「5番の方ぁ!レジへお越しください^^」
さっきの僕のスマイルを彷彿させる素敵なスマイルでの接客。
こうゆう雇用者が日本を良くするのだろうなと感傷に浸る。
もう、いくらでも売ってやろう。そんな気さえした。
「2点で18300円になりますが、よろしかったでしょうか?^^」
言うまでも無く、あのヒゲをむしりとるイメージが脳裏に浮かぶ。
もちろん僕は懇親のスマイル。
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