バイトだった。
2キロほど離れたバイト先へ、30分かけて歩く。
道程、大きな宴会場の待合室で一服する。
そんな、いつもと変わらない行動の中での出来事。
待合室のイスに腰かける3人。
いかにも、といった感じに紳士が如く凛とした表情で佇む初老の男性。
その傍らに、7~10歳程の孫らしき二人の男の子。
二人は、何やら楽しそうに話しているようだった。
「おい、お前それ俺のカードだー」
「いいじゃーーん。」
「おいー、大事にしろよー」
「あははー」
「あははははー」
その仲睦まじいその姿についつい微笑んでしまう。
おじいちゃんは、そんな光景を、やはり微笑みながら眺めていた。
2分ほど経ち、そろそろバイトに向かおうとした時、おじいちゃんが初めて口を開いた。
「おばあちゃん遅いねー」
見た目どおりの落ち付いた口調、少々渋めの声、そのなかに可愛い孫に向けた優しさが垣間見える。
そんなおじいちゃんに向かって、孫二人が口を揃えて
「うるせぇ!!!」
なんて不条理なんだと、その場から離れた。
僕は泣いていたかもしれない。
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